2022/04/15
執筆者: NIマーケティング研究所(集計分析担当) T.A
※NIリサーチャーコラムでは、当社の各リサーチャーが日々の業務等で感じた事を自由に紹介しています。
4月になり桜が咲き、出勤途中や移動中に新入学、新入社などの初々しい雰囲気が感じられてしみじみしたりもしていましたが、一方で、自分も気がつけば歳をとってしまったなぁと実感する季節でもあります。
さて、弊社にもこの4月には新入社員が6名入社し、私も数年ぶりに集計・解析部門の研修を一部担当させていただきました。
“社会人になったら覚えておきたいビジネス用語”なんてものがTwitter等で時々話題になりますが、研修ではそれになぞらえて、日頃業務でなにげなく使っている用語についても話したりしました。
「GT」:Grand Totalの略。
全体値の集計(全体集計、単純集計)をGT表と呼んだりしています。
「BD」:Break Downの略。
各設問と性年代の属性や他の設問の回答など、項目×項目を掛け合わせた集計をクロス集計と呼びますが、その掛け合わせる分析軸・集計軸のことをBDと呼んだりしています。
「n数」:サンプルサイズ(標本のデータの数)
“n”の表記には、N(大文字)は母集団全体を示し、抽出結果の場合はn(小文字)を使用して区別するなど、表記には細かいルールがあることもあります。
その他、母集団の構成に合わせてWB(ウェイトバック)集計する場合には、元をn、WB後をWBNと書いたり、それぞれの会社やクライアント様によっても様々なルールがあったりします。
など、新人向けに書いた内容なのでかなり簡略化していますが、新入社員それぞれしっかり勉強をしてきていて、基礎的な内容はおおよそ知っていました。
それどころか中級レベルについてもかなり把握している様子。
いやはや、今年も頼もしい限り。と、ここでもしみじみ。
研修で「n数」の話をしたときにも質問があがりましたが、調査の設計において“サンプルサイズ”はどの程度がよいですか?という話はよく聞かれます。
日頃行っている調査のほとんどは、対象となる母集団から一部を取り出して行っている標本調査です。
母集団全てを調べた全数調査ではないため、必然的に誤差は発生してしまいます。
この統計的な誤差については、母集団と抽出したサンプルの数(サンプルサイズ)によっても誤差の大きさが変わってきます。
より正確な結果を得るためには、サンプルサイズが大きい・・に越したことはないのですが、サンプルサイズが大きい=回収のための時間もコストも大きくなる、という点が課題になります。
ちなみに、「誤差」というのはあれこれ誤解もあるのですが、「誤差」とは母集団全員に聞いた結果と抽出したサンプルの結果との差を指します。
例えば、学校で「3年2組40名の意識」を聞くのであれば、40人全員に聞いた結果に誤差はありません。
でも、このクラスのアンケートの結果が3年生全体の意見であるかというとそうではないし、全市の3年生全体、全国の3年生全体とどれだけの誤差があるのか?は実は計算もできないし、検証もできないのです。
(この件については、NIリサーチャーコラム #11 世論とSNS ~SNSとともに動く人と社会~ の冒頭でも触れられていますので、そちらもぜひご一読下さい)
「サンプルサイズはどの程度あれば信頼のおける結果なのか」というご質問もよく受けるのですが、これもまた正解はありません。
ただ、サンプルサイズを〇倍増やせば、誤差も〇倍小さくなる・・というわけではないため、その点の考慮も必要になってきます。
(母集団が市民、県民、国民など、非常に大きい場合、1000sあたりまでは誤差の幅が小さくなっていくのが比較的見てとりやすいのですが、1000sを超えるあたりから減少幅は緩やかになっていきます)
そのため、実際にはスケジュール、コスト、調査の設計(分析したい項目に落とし込んだ時のサンプルサイズなども考慮)に合わせながら、サンプルサイズを決めていくことが多くなります。
また、特に重要な指標などについては、その結果の検証のために統計的な検定なども行っています。
特に市場調査の場合は、「市場規模を知りたい」「ユーザーの意識を知りたい」など、調査目的によって母集団も変わってきますし、会場に決まった時間に集まっていただくCLTなどの調査でも、web調査でも、世論調査のように層化二段無作為抽出というのはスケジュールやコストの関係で非常に難しいケースが多いので、「誤差」とは何と何の誤差なのかも慎重にとらえていく必要があります。
弊社のリサーチャーもそのあたりを踏まえて総合的にご提案をさせて頂いておりますので、サンプルサイズ、調査設計に迷った際には随時ご相談いただければと思います。
サンプルサイズを大きくすれば誤差は小さくなる・・というお話とは少し対極的なのが、最近耳にすることが増えてきた「N1(エヌワン)分析」です。
名前のとおりN=1、特定の一人に焦点を当て、インタビューなどを通じて徹底的に深掘りしていき、本質的な認識、見えていなかったインサイトなどを確認し、何が強み・弱みとなっているか、何を求められているかなどの再認識と、そこから新たなアイデアの創出につなげるためのヒントなどを探り出すための、新たな定性的手法のひとつです。
ただ、この一人、誰に焦点をあてればいいの?と思われるかもしれません。
この一人を設定するためには、ターゲットとなる顧客やユーザーの分類、その分布を確認し、何を目的としたN1分析を行うかにより、焦点を当てるべき人が決まってきます。
・ボリュームはまだ小さいけど熱心に使ってくれるユーザー層がいて、そこを広げたい。
・使っていてくれたのに、他商品にスイッチしてしまったユーザーが増えている。
・メリットなども広く認知されている商品なのに、なかなか手にとってもらえない。
など、購買行動別の切り口などであれば、5セグマップや、さらに細分化した9セグマップという方法などで、顧客・ユーザーの分類・分布などの実態を定量調査で把握し、目的に合うターゲットにN1分析を実施します。
5セグマップ:認知や購買経験、購買頻度などを元に、「ロイヤル顧客(購買頻度高層)」、「一般顧客(購買頻度中~低層)」、「離反顧客(購入経験あり、現在なし)」、「認知・未購買顧客」、「未認知顧客」に5つの層に分類。
9セグマップ:5セグマップに今後の購買意向や現在の購買頻度を加え細分化したもの。
その他にも、価値観などを元に分類したクラスター分析や、情報感度分類によるターゲッティングを行った上でのN1分析なども目的に合わせてご提案ができるかと思います。
また、インタビュー対象はN=1ですので、本格的な調査に入る前のプレ調査的な位置づけとして活用する、という方法もあるかと思います。
しかし、「N1分析」は、ターゲットの設定とモデレーターの腕、さらには結果の読み取りに知見が必要で、ひとつ間違えてしまうと大きなミスリードを招く危険性もはらんでいるため、定量と定性の結果それぞれから全体を俯瞰してみることが重要になってきます。
弊社では定量調査での実態把握から、N1分析での深掘りまで、ワンストップのリサーチでご提案、実施をしておりますので、
是非弊社リサーチャーとともに、新しい発見に“出会って”いただければと思います。
NIマーケティング研究所(集計分析担当) T.A
大学時代は社会調査を専攻するも、ロスジェネのさきがけ世代で、大学卒業時は就職氷河期真っ只中。
一度はシステムエンジニアとしての道を歩み始めるも、IT不況のあおりを受け、勤めていたSIerは倒産。
路頭に迷っていたときにネットリサーチの存在を知り、今までの経験をハイブリットできないかと調査業界へ転身。
ロスした分を取り戻すべく、デスク~現場をがむしゃらに走り続けて10余年。現職に至る。
現職では、主に消費財メーカー様の商品開発、市場分析などのテーマに集計分析から報告まで担当している。
マーケティングを「一生の仕事」に