2022/03/22
執筆者: リサーチコンサルティング部 第2チーム シニアエキスパート S.T
※NIリサーチャーコラムでは、当社の各リサーチャーが日々の業務等で感じた事を自由に紹介しています。
ブランドファネルをご存じでしょうか。
消費者が購入を決定するにあたり、認知→興味・関心→比較・検討→購入に進んでいくと仮定して、自分のブランドの強み、弱みがどこにあるのかを把握することができる指標です。
例えば上記のようなブランドA、B、Cがあった場合、
ブランドAがそのカテゴリーの標準的なファネルだとすると、ブランドBは、まず「認知」を上昇させることが重要で、「認知」が上がることで「興味・関心」が高まり、「比較・検討」まで進むことができれば、ほとんどの人が「購入意向」を示すことを意味します。
ブランドCは、「認知」は非常に高いのだけれど、「興味・関心」を持つ人がそのうちの44%しかいないことが最大のネックで、「興味・関心」を高めることが重要であると読み取れます。
認知はされているけれど、興味や関心を持たれていない。
それには様々な理由が推察されます。
<1>自分には関係のないブランドだと思われている
<2>何らかの理由でそのブランドが嫌い
<3>他の商品なら良いが、その商品カテゴリーではそのブランドに興味・関心はない
・・・・
理由がわからないと、対策は立てられないので、まずは「興味・関心がない」理由を知ることで、そこを改善する対策を検討していくことになります。
さらには、「1年前にはもっと興味・関心は高かった」のであれば、この1年間に起こった出来事が影響しているのかもしれません。
商品やサービスは、売れてこそ、使われてこそ企業に利益をもたらすので、マーケティングの目標は「いかに売れる・使われるようになるか」です。
話題になって知名度が高まっても、興味や関心は持たれても、比較・検討の土俵に上がっても、最後に選ばれるものが1つであるのならば、その最後の1つになるためにどうしたらいいのかを考えるお手伝いをするのが、われわれリサーチャーの仕事です。
「認知」を高めるための手段は費用との関係が大きく、「とにかく知ってもらう」ならば、
・マス媒体に大量に広告を出す
・知名度のある人やいわゆるインフルエンサーに使ってもらい、露出度を増やす
・ターゲット消費者の関心が高いイベントのスポンサーになる
など、とにかく目にする頻度を高めてやれば、認知度は高まっていくはずです。
近々の話題で言えば、将棋の藤井五冠が食べたおやつがニュースやワイドショーなどで取り上げられ、地域の銘菓の知名度が全国区になり、いきなり市場が広がるといったことです。
ワイドショーの司会者が「健康に良い」と言っただけで、「最近話題になっている」と紹介しただけで、スーパーの棚からある商品が消えたといったこともありました。
とはいえ、「一発屋」「ブーム」などの言葉が昔からあるように、認知→購入までの動きは、いつも同じとは限りません。
その時、瞬間的に「興味・関心」が高まり、「比較・検討」の土俵に上がる、もしくはそこを飛ばして「購入」に至ったとしても、それが「継続」=その人にとっての、さらには社会的な「定番」になっていくことは、この仕事を長年続けてきても奇跡か?と思ってしまいます。
自分にとってはとても大切な、お気に入りのモノであっても、自分の周りの人たちの多くがお気に入りのモノであっても、突然流通に乗らなくなり、店頭でみかけなくなり、他のモノでもいいかと思っていたら、今まであまり興味・関心もない、どちらからというと避けていた商品が意外に良くて、そちらが定番になってしまった。
ふと気づくと、また棚に前のお気に入りが戻ってきたけれど、もうそれほどお気に入りではなくなってしまった。つまりは商品の質は変わらなくても、手に入りやすさ、目につきやすさで変わってしまうこともある。
そんな経験は、皆さんにもたくさんあるのではないかと思います。
では、「継続」されるためにはどうしたらよいのか。
認知はある程度まで高めてしまうと、費用をかけても購入につながる効果は低くなります。
100%の認知があるものの商品名をTVCMで連呼していても、「興味・関心」や「比較・検討」の時に一番に名前が浮かぶといった効果はあるかもしれませんが、そもそもがそのCMに興味を示す人も少なくなることも懸念されます。
新しい情報がなければ、ただ流れている、ただ眺めているものになってしまうかもしれません。
となると、「認知」された後のアプローチで、「興味・関心」を持ってもらい、「比較・検討」の土俵に上げてもらい、最終的に「最後の1つ」に選ばれるためには、どのような指標に注目すればいいのか。これを把握するために、
・好意度の変化 (好きか嫌いか 「好き」の割合は上がっているか、落ちていないか)
・満足度の変化 (満足度は上がっているか、落ちていないか)
・イメージ (どのようなイメージを持たれているか ポジティブなイメージは上がっているか、維持しているか 悪いイメージは上がっていないか)
などなど、継続的に調査をしつつ、どの変化がそれぞれの要素の変化に影響を及ぼしているのかをデータから読み取るわけです。
満足度と重要項目の関係性については、CSポートフォリオの作成を依頼されることも増えてきました。
X軸に重要度(総合満足度との相関)、Y軸に項目別満足度をプロットし、
・満足度の源泉=強み
・維持すべき項目
・至急改善すべき弱み
・優先度は低いが改善すべき項目
をゾーン分けすることです。
下記のような場合は、「手に入りやすさ」や「お試しサイズ」の施策が、満足度を高める優先要因になることを示していると言えます。
リサーチャーたるもの、購入に関わる何らかの指標を発見できないものか?と思うもので、私もいまだに試行錯誤を重ねています。
例えば、「好意度」が高ければ、「継続して購入」もするだろうし、人に薦めもするでしょう。
実際に、「好意度」と「興味・関心」「比較・検討」「購入意向」は正の相関を示すことが多い要素です。
だから企業は自身のブランドの好意度が上がるように、下がらないように施策を打つわけです。
「推奨度」については、これがなかなか難しく、50代の世話好きおばちゃんなら、自分が良いと思ったものを「これ良いわよ~」「使ってみたら?」とどんどん薦める人も多いのかもしれませんが、実は若い世代では、「人に薦める」という行為自体に責任が生じることを恐れたり、「自分の好みは自分の好みで人に押し付けるものではない」、「そもそもそんな濃い人間関係を築くのが嫌だ」という意識もあって、「推奨する行為をしない」割合も高いのです。だから「薦めるぐらい好きなモノ」でも、アンケートで聞けば「薦めない」と回答する。
これは、「この商品を薦めたくない」「薦めるほど良いと思っていない」わけではなく、「薦める行為そのものをしない」ので、自分自身の購入意向は変わらないのです。
また「期待値」もやっかいな要素です。
これは私も、もう何十年もいろいろアプローチしているのですが、なかなか解析することができません。
「期待値」とは、
・このブランドが出す商品なら良いものであるはず
・この値段であれば、この程度の品質はあるはず
・以前食べた〇〇味がおいしかったから、フレーバーが異なるこの商品もおいしいはず
といった、「これまでの経験や知識から、消費者側が想像するもの」です。
さて、あるカテゴリーの「期待値」と「満足度」の関係を見てみよう!となった時、このような結果が出たとします。
皆さんも商品を購入した時、「期待以上だった!」と思えば、満足度も高くなり、次に買おうとも思うでしょう。
でも、「期待外れだった!」と思えば、満足度も下がるし、次に買うのをやめるかもしれない。
では、最初から期待値を下げておけば、「期待以上だった!」と思ってもらい、リピーターになるのか?といえば、そもそも期待されていなければ、選ばれる可能性が低くなるので、手に取ってもらう、比較・検討される可能性が下がる。
そして、さらにやっかいなことは、どんどん期待値が上がっていくと、今度は「期待外れだった!」と思う割合が高くなってしまうわけです。
例えば、「この商品は安くて高品質だ!」という期待を持たれてしまうと、製造側は「この価格なんだから、この程度の品質でも消費者は満足するはずだ」と思っていたら、ある時期から、「安かろう、悪かろう」が大きな不満になってしまう。
さらに価格を上げれば、「価格が上がったのだから、もっと良いものであるはずだ!」という期待が生じ、十分な品質であっても満足度は上がらない。
仕事の場面であっても、「この人はこれだけの成果が出せるはず」と期待値が高いAさんが意外にそうでもなかった場合と、「ちょっと心配」と思っているBさんが「なんとかやり遂げた」ことが、事象としては同じだった場合でも、評価はBさんの方がなんとなく高くなる。
では期待値を下げて、能ある鷹は爪を隠しておけばいいのか?と思うと、そもそも爪を隠しすぎると、能を示せる場所も与えられないわけです。
分析視点では、さらにやっかいなのが、
期待値:購入・使用する前
満足度:購入・使用した後
で観測時点が異なるため、さらに解釈が複雑になります。
購入・使用した後の「期待値」は、既に購入・使用した経験を加味した「次への期待値」だし、「購入・使用前のことを思い出して、、」と条件付けたとしても、設問の順番や聞き方などで、同じ人に聞いたとしても結果が変わってしまうかもしれない。
「購入」は買った・買わなかったの事実なのですが、「興味・関心」「期待」「購入意向」といった個人の気持ちに関わることとの関係性を見ることにも注意が必要です。
元々は社会統計学の分野をやっていた私から見ると、身長・体重・距離・時間など、メジャーや体重計、時計で客観的に測れる、誰が測っても同じになるものが「数値データ」であって、個人の気持ちに関わる評価は「人によって尺度が異なる定性的なデータ」になります。
つまり、身長165センチは世界共通ですが、満足度5段階で5の意味は、人によって異なるわけです。
競合があるのであれば、一番好きなものが5なら、二番目に好きなものは4のような相対的な要因も入る場合もあるし、同じモノでも、満足度のハードルが低い人は5でも、ハードルが高い人は3かもしれない。
あれこれ考えていくと、数値の解釈というのは単純にはできないことを、いまだに日々感じています。
という具合で、「ヒット商品をつくる」「定番商品にする」など、売れる、売れ続けるモノを世に出すことは、リサーチャーとして一度は、できることなら何度でもやってみたいことなのですが、35年以上広い意味で言えばこの業界にいて、それに巡り合えることはとても幸運なことだということも、また身をもって知っています。
そんなリサーチャーがお手伝いできることは何なのか。
ビックデーターの収集、活用、解析で、例えばPOSのデータであれば、「誰が、いつ、どこで買ったのか」「ある商品が突然売れ出した」など、「売れた」、また「売れ行きが下がっている」という事実は瞬時にわかるようになりました。
何がいくつ売れたのかという購買データも、バーコード管理ができるようになってからは、かなり正確に、細かく、迅速に出せるようになっています。
さらには、SNS分析によって、「ある商品が急にSNS上で話題になってきている」、「ある商品の悪い評判が急に拡散されている」といったことまで、瞬時にわかるようになってきました。
我々がお手伝いできることは、その原因を探り分析すること、さらに言えば時系列の定点調査の変化から、その予兆をつかむことです。
原因がわかれば、効果的な対処もできるし、予兆がわかれば、先回りの対策ができます。
そんなことを考えながら、社会や人々の意識の変化にも配慮し、見ていくべき指標、変化を迅速にキャッチできる指標はどこにあるのか?を、数字を眺めつつ、日々考え続けています。
また、POSやSNSの分析からは得ることが難しいデータを得るための調査手法の開発を続けています。
弊社のリサーチ手法の一覧をごらんいただき、興味を持たれる手法があれば、ぜひお問合せください。
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リサーチコンサルティング部 第2チーム シニアエキスパート S.T
工学部工学研究科博士課程都市・交通計画専攻で道路計画、交通計画、都市計画を学ぶ
公共系シンクタンク、大学研究所では総合計画・各種計画・施策の立案、
住民参加型まちづくり事業の推進を担当
高速道路建設の経済効果等を研究する中で、「満足度をお金に換算して経済効果に計上できないのか?」と
思い立ち、マーケティング理論に出会う
39歳でマーケティングリサーチ会社に転職
その後は各種公共施策の立案と並行し、商品開発、市場分析等を担当
海外調査(グローバルリサーチ)については、気づいたら16か国延べ40都市で50以上のリサーチを実施
6年前から現職
マーケティングを「一生の仕事」に