2020/06/09
執筆者:リサーチコンサルティング部 第2チーム リサーチャー S.T
※NIリサーチャーコラムでは、当社の各リサーチャーが日々の業務等で感じた事を自由に紹介しています。
モデレーター歴も考えてみるともう30年以上。
モデレーターではなく「司会者」「進行係」と呼ばれていた頃からやっています。
都市部の先進的な調査会社では既にモニタールームのある専用施設もありましたが、円卓なんて中華料理店かホテルの宴会場にしかない!という時代からです。
遠隔モニターもできず、クライアント様同室で、ずらっと後方に鎮座される中、前方のテーブルを囲む一般市民の対象者たちにいかにくつろいで自然に話してもらい、ご意見を引き出すか、に苦心していました。
モニタールーム付きの専用施設が整備されてからも、「この不自然なでっかいミラーガラス、あっち側から誰か見ていますよね?」といぶかしがる対象者たちに、「気にしないでね~」と言いつつ、やっぱりいかにくつろいで自然に話してもらい、ご意見を引き出すか、に苦心していました。
そのうち対象者たちも慣れてきて、そんな気遣いも必要ではなくなってきました。そして「オンラインインタビュー」なるものが出現。
※サービス紹介URL:オンラインインタビュー
とはいえ対象者側の通信環境の課題や「スマホやPC越しに会話をする」ということに抵抗感もまだまだある中、これから一般的になっていくのかな?と思っていたところで、今回のCOVIT-19騒動。否応なしにいきなり一般的手法になりました。
メリットについては、
<1> 対象者が自宅でくつろいで話ができる
<2> 全国から対象者を集めることができる
<3> そのため出現率が低い対象者からお話を聞くことも可能
等々、他社様を含めてあれこれ述べられています。
私自身も、特に<3>、また対象者がご多忙で拘束が短時間で済むオンラインインタビューを希望される場合など、過去にも経験はありました。
ただし、多くは「オンラインで話すこと」に慣れている方だったし、そもそもオンラインインタビューに参加することを承諾している方々(オンラインインタビューにも応じられるとモニター登録されている方々)でした。
しかし、今回は、「普段はルームに来ていただいてお話を聞く方々」を含めてのオンラインインタビューで、オフライン、これまでのオンライン、最近のオンラインの対象者の様子を比較することで、その違いや対応の必要性を改めて気づかされました。
まず気づいたのは「タイムラグ」です。
通信環境は人それぞれで、特に対象者のスマホやPCを利用した場合は、思いもよらぬほどのタイムラグが起こることがあります。
弊社でも当初は対象者の方々のスマホにアプリをインストールしていただく方式を採っていたのですが、現在はポケットWifiやタブレット等をあらかじめ送付して通信テストをするケースもあるほど、通信環境の違いには悩まされました。
※事例紹介URL:https://www.n-info.co.jp/case/study07/
1対1のインタビューの場合はまだ気づきやすいのですが、複数参加のFGIの場合は、ある一人の方だけが他の人から見れば時差が起きているということもありました。
Wifiやスマホの通信速度は時間帯によってもかなり違い、スタート時は大丈夫でも、だんだん相手が静止画になってしまったり、音声が途切れたり。ひょっとすると相手側でも同じことが起きていたのかもしれません。
でもタイムラグは起きている側では気づかないこともあります。
そのため、私はまず、インタビューを始める前に「こういう形式だと、タイムラグが発生することがあります。
そちらがお話している途中で私が新しい質問をしたり、逆に沈黙が続いたり、『なんだか噛み合わない』『なんだか話しづらい』と思ったら、遠慮なくおっしゃってくださいね。
音声が聞こえない時や、自分の声が届いていないのでは?と思われた時は、手で大きな×を作るなどしてくださーい」とお願いするようにしていました。
一般の対象者の方は、「自分は何か変なことを言っているの?」「自分の話は必要ないのでは?」と思われてしまうと、リアルの調査でも発言が控え目になります。
この働きかけをするだけで、対象者の方々にいらぬ不愉快を感じさせることもなく、また不慣れなオンラインインタビューの不安感も少しは払拭できたのではと思います。
ただ、ご自宅など各所からモニターされているクライアント様側でも視聴に支障が出るケースもあり、その時々の状況によって通信環境や使用するアプリや機材等々を複数用意するなど、解決しなければならない課題も浮き彫りになってきました。
もう一つは、全身から得られる対象者情報が少ないということです。
オンラインインタビューでは、対象者の方の顔、もう少し引いていただいてもバストアップしか見ることができません。それ以上カメラから離れていただくと、対象者の方はさらに話しづらくなるようです。
オフラインでモデレーターをしている時はそれほど意識していなかったのですが、テーブルの上に乗せた手の動き、椅子の座り方、背もたれへの体重のあずけ方、様々な様子から対象者の感情を読み取っていたことが改めてわかりました。
「何か言いたそうにしている」
「意見を訂正したがっている」
「この質問の内容を快く思っていない」
「質問の意味を的確にとらえていない」
「自分の意見がこちらの意に沿っているかどうかを過剰に気にして、自分の意見ではないことを言っている」
FGIであれば「私に話を振って!と思っている」
リアルで全身を見ていると自然に伝わってきて、その後の取り回しを変更、工夫していくための情報が、画面に映る顔だけではよくわからないのです。
細かい表情や口調の変化も、画面とスピーカー越しでは見落としてしまうこともあるのかもしれません。
それだけに、オンラインのモデレートは、オフラインよりも「見えている情報が少ない」ことを意識して進めることが重要だと感じました。
対象者側でもおそらくそれは同様で、もともと私はオフラインでもオーバーリアクション気味のモデレーターで、「場の空気を動かすことで対象者の意見を引き出す」タイプだったこともあり、自分自身も画面の中で動くようにして、こちらの感情や表情をより対象者に伝えることを意識しました。
そうすることで、開始当初は戸惑いが見られた対象者の方々も、対面で話しているのと同じ様子に変化していくことも感じとれました。
また、対象者の方々の多くはご自宅から参加されます。
リビング、家事スペース、旦那様の書斎、寝室、子ども部屋。インタビューのための1~2時間、できる限り集中できる場所を選んではくださるものの、同居のご家族に一切の声を聞かれないという環境を作るのは大変なことです。
途中でご家族が帰宅されることもあるかもしれません。ここもまたオフラインで会場に来ていただき、気兼ねなくお話いただける環境とは違います。ご家族に聞かれると困る話もあるでしょうし、聞かれるかもしれないと思うと話せないこともあるでしょう。
そこまで配慮してインタビューフローを作成することの必要性も感じました。
対象者にも様々な方がいらっしゃり、オフラインでさえ臨機応変対応していかねばならぬインタビューで、「困った・・この人にどうやって聞いたらいいのか?」と頭の中では冷や汗をかきつつも、顔には出さぬ!聞き出してみせるわ!ぐらいはできるようになったと思う私ですら、オンラインはまたハードルが上がるなと感じるところは多々ありました。
そんなことわかっています!と思われること、小さいこと、大きいこと様々あるとは思います。
しかし、それをわかってやるか、わからずにやるかでは、インタビューの成否はまったく異なると思います。
GWには「オンライン帰省」を勧められ、主婦の方々もママ友と「オンライン飲み会」し、大学生は「オンライン授業」「オンラインゼミ」が当たり前になり、会社員はテレワークで「テレカン」や「オンライン営業」したこの数か月。
オンラインミーティング用アプリのダウンロード数も格段に増え、何がなんだかよくわからないけれどとりあえず使えるようになりました!という方々もたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。
モデレートをしていても、3月より4月、4月より5月と、対象者の方々も「オンラインで話すこと」に慣れてきているなと強く感じました。
この状況であれば、やり方を工夫することで、例えば試食を伴うCLTも、こちらからオンラインで指示を出しつつ対象者のご自宅で作っていただき、試食し、webアンケートの画面で答えていただくという形式であれば可能ではないのか?
何分経ったら回答してください!等の指示有CLTもできるのでは?
VR機器がさらに進化すれば、ご自宅を仮想店舗にして棚評価テストができるのでは?
もっと新たな調査手法を考えられるのでは?
海外のリサーチャー仲間と情報交換をしていると、日本国内よりも深刻な状況で社会活動の制限が厳しい各国であっても、既に様々な手法を駆使して市場調査は継続されています。
そこから「そんなことまでオンラインで?」「そういう方法で?」など今後の可能性のヒントを得ることも多々あります。
また、報道だけを見ていると早期の経済回復はあきらめているとさえ思っていた欧米各国においても新商品開発関連を含めた市場調査が継続していることに、彼らの「できる限り早期に経済を回復させるのだ」という意志の強さを感じました。
さらには「日本ではもう調査はできるの?」という問いかけから、自国よりもおそらくは早期に経済状況が復活するであろうと考えている日本を含めたアジア諸国重視の施策は、今後さらに加速するのではないかという脅威も感じています。
あれよあれよという間に、試行錯誤の中である意味「とにかく今はオンライン!」で進んできた数か月ではありましたが、新型コロナウイルスとのお付き合いはこれからも続きます。
私たちは、参加者やスタッフに対するできる限りの感染防止対策をとったリアル調査の再開とともに、リアル調査の利点を十分に理解しつつ、「オンラインでもできること」ではなく「オンラインだからできること」、「リアルに負けないオンライン」「リアルとは一味違うオンライン」調査をこれからも前向きに模索していきます。
「こんな調査をしてみたい」「今の状況でできるだろうか」そんな時はぜひ営業担当にご相談ください。
「どうやったらよりよい調査ができるのか」を、クライアント様方とご一緒に、現場担当者を含めた社員一同で考えさせていただければ幸いです。
リサーチコンサルティング部 第2チーム リサーチャー S.T
工学部工学研究科博士課程都市・交通計画専攻で道路計画、交通計画、都市計画を学ぶ
公共系シンクタンク、大学研究所では総合計画・各種計画・施策の立案、
住民参加型まちづくり事業の推進を担当
高速道路建設の経済効果等を研究する中で、「満足度をお金に換算して経済効果に計上できないのか?」と
思い立ち、マーケティング理論に出会う
39歳でマーケティングリサーチ会社に転職
その後は各種公共施策の立案と並行し、商品開発、市場分析等を担当
海外調査(グローバルリサーチ)については、気づいたら16か国延べ40都市で50以上のリサーチを実施
4年前から現職
マーケティングを「一生の仕事」に