近年、商品担当者やブランド担当者が自ら生活者インタビューを実施する機会が増えています。しかし、定性調査のモデレーションには専門的な知識や技術が求められるため、「何に気を付ければよいのか分からない」と不安を感じる方も少なくありません。本連載では、大手事業会社でリサーチ専任担当として調査に携わる黒河内氏が、初めてモデレーターを担当する方に向けて、調査を成功に導くためのポイントを解説します。第1回は、インタビューを行う前に押さえておきたい「最も大事な考え方」をご紹介します。

【連載】失敗しないインタビュー調査のためのポイント (全5回)
 第1回:自身でインタビュー調査を行う前に知っておくべき「最も大事な考え方」編 ←今回はこちら
 第2回:対象者に‘なるべくそのまま話してもらう’ための配慮を重ねる―「空気づくり」編
 第3回:対象者の言葉を変えてしまわない「聞き方・掘り下げ方」編
 第4回:モデレーション以外にも大切な「調査設計・実施準備」編
 第5回:意思決定に活用するには社内関係者からの信頼も欠かせない―「社内巻き込み・調査結果活用プロセス」編

執筆者プロフィール

黒河内 春子

マーケティングリサーチャー

プロフィール
マーケティングリサーチ会社にて、国内外のさまざまな業種のクライアントに対し、調査企画立案、実施、分析、報告/提案を含めた定性・定量のリサーチ業務全般を担当。
その後、大手広告代理店にてマーケティング業務に従事。各種クライアントのコミュニケーション戦略全般/コンセプト開発/ブランディング等にたずさわる。
現在は事業会社にてマーケティングリサーチ専任担当として、同社商品開発、ブランディング、広告、パッケージデザイン等に関する各種調査を担当。
現職のかたわらパラレルワークで、フリーランスのリサーチャーとして広告代理店や事業会社から調査業務の委託も受けている。


はじめに

商品開発担当者やブランドマネージャーなど、ブランドや商品を作る立場の方が、自らモデレーターとなって生活者にインタビューするケースが増えていると感じます。
一方で、定性調査のモデレーターは本来、調査会社などで経験を積んだ方や専門機関のプログラムを修了した方などが担う専門職です。実はその自然なインタビューの中には表からは見えにくいさまざまなテクニックやノウハウがあり、それがインタビューの成否を分けると言っても過言ではありません。
では、プロのモデレーターではない方がモデレーションを行うことになったら、どんなことに気を付ければ良いのでしょうか。

このコラムでは、市場調査会社・広告代理店での勤務を経て、現在メーカーでリサーチ専任担当を務める私の経験から、検索しても意外と出てこない、初めてモデレーターを行う方向けの「失敗しないインタビュー調査のためのポイント」をお話します。第1回は、要となる「最も大事な考え方編」です。

今、商品・ブランド担当者自身でもインタビューをする時代

「Research Democratization」(リサーチの民主化)がすすんでいる

ここ数年、欧米の論文等でちらほら見かけるようになった「Research Democratization」という言葉、直訳すると、「リサーチの民主化」です。もともとの学術的な文脈では、ざっくり言えば

「研究を専門家・研究機関だけが決め、実施し、所有するものにせず、研究によって影響を受ける人々にも、研究のテーマ設定・方法・実施・成果へのアクセスや活用に参加する機会を広げること」を指します。

企業におけるリサーチの文脈では、リサーチへのアクセスや活用を広げるだけでなく、適切な教育や支援のもと、これまでリサーチを専門としていなかった人が一部の調査を自ら実施することも、そのひとつの形と考えます。

背景には、企業に求められるコスト削減やスピード、生活者ニーズの多様化・複雑化、AIやセルフリサーチツールの進化(例えば日本インフォメーション社の「FastODI」もそのひとつで、短期間・低コストでインタビューができるセルフ型オンラインインタビューサービス)があると考えます。

こうした環境を活用し、「大きな調査をここぞという要所で行う」だけでなく、それ以外の必要な時にも生活者の声を聞きながら企画や開発をさらにブラッシュアップしていく。
Research Democratizationが目指しているものを実務的に捉えると、自身で調査をすること自体ではなく、「生活者を知る頻度を上げ事業の意思決定の精度を高めていく」ことだと考えます。

誰にでもできるようになったからこそ、「守るべきもの」がある

私は、こうした環境の変化をポジティブに捉えています。一方で、以前よりも「誰にでもできる」環境が整ったからこそ、質を維持するための「守るべき考え方」がより重要になるとも感じます。

「アンケート」「座談会」といった言葉には親しみやすさがあります。「聞きたいことを質問して、答えてもらえばいい」と思われるかもしれません。

でも、「生活者の実態を知る」ということは、実はとても繊細な行為です。質問の仕方、情報を出す順番、モデレーターの表情や相づち、沈黙への対応等・・・、ほんの少しの違いで、対象者から出てくる言葉は変わります。ですから当然ながらプロのモデレーターが行った方が精度は高く、またプロに任せるべきテーマもあります。

でも扱うテーマをきちんと選び、押さえるべきポイントを押さえれば、商品・ブランド担当者自身でも、目的を果たすインタビューは可能だと私は考えます。

自身でモデレーターを行うからこそ得られる、かけがえのない経験

そして私は、商品やブランドを作っている本人がモデレーターとして生活者と直接向き合うことには、調査結果そのものとはまた別の価値もあると考えます。

目の前にいる一人の生活者が、どんな生活をし、何に困り、何を喜び、商品をどう見ているのか。それを直接の対話をとおして、自分の目で、耳で、よりリアルに知る。その体験は、その後商品やブランドについて何かを考える時の大事な「アンカー」になるのではないでしょうか。

また、データの数字やレポートを見た時にも、きっとその向こうにいる生活者をもっと具体的に想像できるようになることでしょう。商品・ブランド担当者自身がインタビューをすることには、そんな、目の前の調査課題を超えた価値もあると私は考えます。

目指してほしいのは、「インタビューを失敗させない」だけでなく「調査プロジェクトを失敗させない」こと

ここで、この連載を通して目指してほしいゴールをお伝えしておきます。
それは、単に「失敗しないインタビューをする」ことではありません。 どんなに良いインタビューができても、その結果が意思決定に活用されなければ意味がありません。
例えば、社内関係者に「〇〇さんのインタビューのしかた、いまいちだったな」「やっぱり自分達でやっちゃダメだよね」と思われ「この結果は信頼できない」と判断されてしまった。せっかくインタビューをしたけど、なんとなくやっただけで終わってしまった・・・。

だから目指してほしいのは、「インタビューを失敗させない」だけでなく、社内関係者にも結果を信頼してもらい実際の意思決定に活用される「良い調査にする」こと。
このコラムではインタビューそのものだけでなく、「調査プロジェクトを失敗させない」ためのポイントもお伝えしたいと思います。

初めて自分がインタビュー調査をする時、こんな不安がありませんか?

プロのモデレーターはインタビュー当日の司会だけをしているわけではなく、調査企画からインタビューフロー(インタビューの流れの台本のようなもの)作成、分析までを一気通貫で行います。「インタビューを自分でする」ということは、基本的にはそれらをすべて自分が行うことになります。

「インタビューフロー、自分で作れるかな」
「“バイアスをかけないように”とは聞くけれど、具体的にどうすればいいの?」
「対象者がしゃべってくれなくて、盛り上がらなかったらどうしよう」
「分析ってどうしたらいいの?」
「そもそも、自分がやって、社内のみんなが納得してくれるのかな」

こんな不安や疑問が出てくるかもしれません。 このコラムでは、「プロの技術を全部覚えてください」とは言いません。
初めて自分で行うからこそ、何を捨て、何を守るべきなのか。
インタビューフローの作り方や報告書の構成などは検索すれば出てきますので、このコラムでは検索してもなかなか出てこないけれど、実は大事なポイントを中心に、初めてモデレーターに挑戦する方でもなるべく取り入れやすい形でお伝えします。

「調査プロジェクトを“失敗”にしない」ための大前提

そもそも「自分でやらない」という判断も重要

調査プロジェクトを失敗させないための最初の判断は、「これは本当に自分でやってよい調査なのか?」を見極めることです。前述のとおり、プロのモデレーターは調査企画からインタビュー、分析までを一気通貫で行います。つまり、プロに依頼する価値は「インタビューが上手い」という一点だけではありません。何をどう聞けば調査課題に対する適切な情報を得られるのかを設計し、情報を引き出し、それを分析しどう解釈するかまで担ってもらえます。

そのすべてを含めて、「自分でやるか、プロに任せるか」を判断する必要があります。

判断基準① 対象者自身が言葉にできることか

「これは本当に自分でやってよい調査なのか?」を見極めるひとつ目の判断基準は、「事実を聞く」「評価を聞く」といった対象者自身が比較的容易に言葉にできる内容かどうかです。それが中心なら、商品・ブランド担当者自身でも扱いやすいでしょう。例えば、

・どのように商品を使っているか
・どんな場面で使っているか
・商品について何が気に入っているか、何が不満か
・このネーミングをどう感じるか

などです。

一方で、本人も明確には認識していない潜在的なニーズや、行動の奥にある価値観、ブランドとの心理的な関係などを捉えるには、高度な聴取と分析が必要になります。「聞けば答えが返ってくること」か、「本人も普段意識していないようなことを対話の中から探り出すこと」か。言い換えると、把握したいことの「深さ」はどのくらいか。後者になるほど、深く知る必要があるほど、プロに任せる必要性が高まると考えます。

自身でも行いやすい調査課題例

前述の判断基準を具体例でお話します。例えば、

【◎比較的行いやすいもの】
・利用実態・行動実態の把握
・アイデア探索
・商品満足度・改善点探索
・ネーミング評価
・購買に至るまでの行動経路把握

【○目的によって判断したいもの】
・パッケージ評価
・広告表現評価

などです。

プロに任せた方がいい調査課題例

対して、それ以外の、例えば

・発売判断のためのコンセプト評価
・ブランドとの心理的な結びつきまで把握するような深いブランドイメージ聴取
・潜在ニーズ探索
・感情や意思決定プロセスを含むカスタマージャーニー

などは、プロに任せた方がよいと考えます。

なお、ここで、混同されることが多いと感じるものをひとつ。「購買に至るまでの行動経路の把握」と「カスタマージャーニーの把握」は別物とお考えください。「最初にこの媒体を見た。その後ここで検索し、このサイトを見て購入した」といった行動経路(パスウェイ)を聞くことは、「聞けば答えが返ってくること」なので比較的行いやすいでしょう。

しかし、本来のカスタマージャーニーには、

「なぜその媒体を選んだのか」
「そこに何を期待したのか」
「それを見てどう感じたのか」
「その感情がどのように次の行動につながったのか」

といった生活者の心の動きまで含まれます。そこまで捉えようとすると単なる行動経路の聴取とは難易度が大きく変わるので、やはりプロに任せるべきと考えます。

判断基準② 間違った時のリスクはどのくらい大きいか

もうひとつは、「その調査結果を何の意思決定に使うのか」です。

・商品のGo/Not Goを決める。
・ブランドの方向性を決める。
・大規模なリニューアルをするかどうかを決める。

こうした大きな投資や売上に関わる判断の根拠にする場合は、聴取が甘かったり解釈が間違っていたりすることによる事業に与える影響が大きくなります。調査テーマだけを見て「これは自分でできる」と判断するのではなく、その結果を何にどのように使うのかまで考えることが大切です。

高リスク・高解釈領域はプロに任せる

例えば「ブランドイメージ把握」でも、今後の検討材料として幅広くイメージを知るための探索なら、ブランド担当者自身でもできるかもしれません。

一方、大規模なブランドリニューアルを行うためだったら、イメージの機微やその源泉など知りたいことはより深く繊細になり聴取・分析の難易度が上がりますし、その分析結果がブランド戦略そのものの決定に反映されるという影響の大きさを考えると、やはりプロに任せるべきでしょう。

判断基準①②を総合すると、つまりは「低リスク領域は内製化を検討してもよいが、高リスク・高解釈領域はプロに任せるべき」ということです。

なお、自身の関わるプロジェクトとしてインタビュー調査そのものをまだ一度も経験したことがないという方は、最初はプロに任せることをおすすめします。「良いインタビュー」の見本を知らないまま手探りで始めてしまうと、インタビューの形にはなっていても、得られる情報の精度が低くなっていることに自分自身で気付けない可能性があるからです。

ここからは、「自分で扱ってもよい調査」であることを前提に、話を進めます。

「失敗しないインタビュー」のために意識してほしいふたつのこと

ではインタビュー自体にフォーカスしてみましょう。
プロのモデレーターには、たくさんの技術がありますが、それらをすべて覚えてからインタビューをしようとしたら、いつまでたっても実践できません。

しかも、インタビューは一発勝負です。目の前の対象者の反応を見ながら、その場で判断し深掘りや追加の質問をし、話しやすい雰囲気づくりも行いながら、調査課題に対して適切な情報収集ができているかを考え、進行も管理する。初めての方が、これをプロと同じように行うのは現実的ではありません。

だから私は、まずはこれからお話しするふたつのことを強く意識してほしいと思います。対応に迷った時などにも、このふたつに立ち返れば「今、自分はどう振る舞えばいいか」を導き出す判断軸になるからです。

大事な考え方ひとつめ:「なるべく、そのまま話してもらう」

ひとつめは、「対象者に、普段の行動や感じていること、呈示物などに対してその時感じたことを、なるべくそのまま話してもらうこと」です。「え、当たり前のことだよね。普通そのまま話すでしょ?」と思われるかもしれません。でも、この「当たり前」を実現することが、実はとても難しいのです。

インタビューは、そもそも「ありのままでいにくい、イレギュラーな状況」

私たちが知りたいのは、ありのままの生活者の行動、考え、感情です。ところが、その人にありのままを話してほしいと思っているにもかかわらず、インタビューは最初から「ありのままでいにくい、イレギュラーな状況」です。

・知らない人と会議室に集められる。
・知らない人からいろいろ質問される。
・デプスインタビューなら、知らない人と1対1で一定時間話す。

それだけでも、普段とは違います。そこに他の対象者の発言や、モデレーターの表情・反応が加わります。

例えば「初対面の他の参加者が、呈示された商品案を絶賛し盛り上がっている、司会はその商品を作っている会社の人」という状況で、「正直良さがわからないので私は買わないです」と何のためらいもなく言える人はどのくらいいるでしょうか。

「私にはちょっと合わないかな……でも、いい商品だとは思います」くらいに表現を和らげる、あるいは周囲に合わせて「私もいいと思います」と言ってしまう人もいるかもしれません。

その瞬間、私たちが本当に知りたかった「ありのままの生活者の反応」から、少しずつ離れていきます。対象者に「そのまま話してください」とお願いしただけでは、そのままの言葉が出てくるとは限りません。モデレーター自身が‘対象者がそのまま話せる状況をつくる’必要があるのです。

対象者の言葉を変えてしまわないために

対象者の言葉を変えてしまわないこと。私は、プロのモデレーターのさまざまな振る舞いは、ほぼこの目的に集約されると考えます。

「こういう時モデレーターとしてどう反応すればいいんだろう」
「今、何と言えばいいんだろう」

と、初めてのインタビューでは迷うことがたくさんあると思います。そんな時には「どうすればこの人が本当に思っていることを、そのまま話せるだろう?」と考えてみてください。それだけでもあなたの振る舞いは、おのずとモデレーションの「あるべき姿」に近づいていきます。

具体的な振舞いの例は、本コラム第2回・第3回で詳しくお話しします。

大事な考え方ふたつめ:「‘この人のことをもっと知りたい’と思う」

もうひとつ、強く意識してほしいことが、「対象者のことを深く知りたいと思うこと」です。

これも「対象者のことを知るために調査してるんだから当然でしょ?」と思われるかもしれません。でも、モデレーションに慣れていない方のインタビューを見ていると、質問に対して何か答えが返ってきた時点で安心して、次の質問へ進んでしまうことが多々あると感じます。

質問した。
答えてくれた。
だからその質問は終わり。

でも、それでは定性調査の良さを十分に活かせません。

「答えが返ってきた」と「その人を知った」は違う

例えば、対象者にメイク用品について「なぜその商品を使っているんですか?」と質問したとします。
対象者は、「肌に合っているし、メイクポーチに入れていても恥ずかしくないからです」と答えました。
ここで「なるほど。では次の質問ですが……」と進んでしまうこともできます。
でも、「『恥ずかしくない』とはどういうことですか?」とか「逆に、どんな商品だと恥ずかしいんですか?」と聞いてみる。

すると、「私普段けっこう部下をてきぱき指導したりバリバリ仕事する人って思われてると思うので、例えばもし若い子が使うようなプチプラのものを使ってたら『え、部長ってそういうの使うんだ、意外』と思われそうで……」という話が出てくるかもしれません。

最初に返ってきたのは、「メイクポーチに入れていても恥ずかしくない」という言葉でした。 でも、その人をもう少し知ると、「職場での自分のイメージに見合ったブランドで(少なくとも人に見られる可能性がある)メイク用品はかためたい」という、その人にとっての商品選択の基準が見えてきます。この「その先」を知ることができるのが、定性調査の大きな価値です。
「答えが返ってきた」ことに満足せず「その人を知る」ことを心がけてみてください。
(なお、調査目的にもよりますが、「それはメイク用品だけなのか」「そうだとしたらなぜなのか」「‘意外’な‘プチプラの’メイク用品だと自分はどう見られると思うか」「そう見られた時の自分の気持ちを『恥ずかしい』以外で表現するとどんな言葉か」等々、私はもっといろいろ知りたいなと思います。)

「対象者に恋したつもりで」

私は、インタビュー経験の浅い後輩や商品・ブランド担当者に、「この時間だけ、対象者に恋をしたと思ってください」と言うことがあります。プロのモデレーターであれば、インタビュー中、対象者になるべく近づいてその人の世界を見る視点と、少し離れたところから全体を俯瞰する視点の両方を持っています。そして、会話の中に出てきたキーとなる言葉を逃さず、適切なタイミングでプローブ(さらに深く掘り下げて聞く)をする。でも、初めてモデレーションをする方に、「同じことをしてください」と言っても、難しいでしょう。

なので「最初から近づく視点と俯瞰の視点の両方を持つのは難しいから、まずは近づく視点に集中する」ことを提案します。シンプルに、『この人をもっと知りたい』と思っていただきたいのです。そしてその熱量をイメージしやすくするための言葉が、「対象者に恋したつもりで」です。

もちろん、本当に好きになる必要はありません。対象者を「調査対象者」という観察対象として対面し距離を取って見るのではなく、「ひとりの人」として、その人の横に立ちその人が見ている世界を同じ目線から理解しようとする。恋をした相手なら、「この人、何が好きなんだろう」「何がこの人の心をつかんでいるんだろう」「どうしてこれがそんなに好きなんだろう」と、知りたくなるのではないでしょうか。

インタビューでも、そのくらいの興味を対象者に向けてみてください。質問に対する「答えを集める」のではなく、目の前にいるひとりの人を「理解しようとする」。 その姿勢が、定性調査でしか得られない情報へ近づく一歩めになると、私は考えます。

よくある質問

Q.

対象者の本音を引き出すにはどうすればよいですか?

具体的な方法は本コラム第2回・第3回で詳しくお話ししますが、まずは「本音を引き出す」という言葉の捉え方がひとつポイントになると考えます。
「本音を引き出す」というと、「対象者の中には、表に出ている回答とは別に“本当の答え=本音”が隠れている。時に対象者自身もそれに気づいていない。モデレーターはテクニックを使ってそれを引っぱり出す」といったイメージを持たれるかもしれません。
ただ、このように「対象者自身も認識・言語化していない深層心理や価値観まで探索する」ことは、プロに任せた方がよい「高解釈領域」です。
商品・ブランド担当者の方が自ら行いやすい「事実を聞く」「評価を聞く」インタビューでは、「建前をあばく」のではなく、「対象者自身も言語化していなかった経験や判断の背景を、一緒にほどいていく」と考えてみてください。
「対象者の正面に立って本音を引っぱり出す」のではなく、「横に立って、思い出したり言語化したりするための伴走をする」。そんな姿勢を意識して、ぜひ本コラム第2回・第3回の具体的な方法をお読みいただければと思います。

Q.

対象者が気を遣って本音を言っていないように感じた時は、どう対応すればよいですか?

「良くないと思ったところも遠慮なく教えてください」「どんな意見でも大丈夫ですよ」と伝えてみましょう。
また、そもそも対象者が「気を遣わなくてはいけない」と感じる状況をなるべく作らないことも大事です。その先手の策として、【インタビューの最初に「気を遣ったり、忖度したりする必要はありません。それぞれの方がどう思ったかそのままうかがうための会です」と主旨を伝えておく】、また特に評価を聞く場面では、【先に各人の評価を簡単なアンケート(5段階評価1問で充分です)に書いてもらい各人の評価を明らかにしてから全体で話す】方法も有効です。 逆に「本当ですか?」「気を遣っていませんか?」と迫るような直接的な追及は避けましょう。

Q.

沈黙が怖いです。インタビュー中に沈黙が生まれてしまった場合に、うまく乗り切るためのテクニックはありますか?

まずお伝えしたいのは、沈黙は必ずしも「乗り切らなければならないもの」ではないということです。
対象者は記憶をたどったり、普段言葉にしていないことを初めて言語化するのに時間がかかっているのかもしれません。そして、沈黙も対象者のひとつの反応です。そこから、「これは普段あまり意識されていないことなのかもしれない」といったことを読み取るヒントにもなります。
その時間をモデレーターが怖がって埋めようとすると、対象者が考える時間を奪ったり、「早く何か答えなくては」とその場をつなぐための「それらしい答え」をつくらせてしまったりする可能性があります。
プロのモデレーターはさりげなく質問の表現を変えて言い直したりもしますが、初めてモデレーターをする方は、まずは沈黙を怖がらずに待つこと。必要であれば笑顔で「ゆっくり考えていただいて大丈夫ですよ」「うまく言葉にならなくても大丈夫です」と声をかけ、対象者が安心して考えられる空気感をつくってあげましょう。

まずはふたつの考え方を、インタビューの軸に

この第1回では、商品・ブランド担当者自身がインタビューをする前に意識していただきたい大事なことをお話ししました。

まず大前提として、「調査プロジェクト自体を失敗させない」をゴールにすることと、自分で行ってよい調査なのかを見極めること。「インタビューを失敗させない」ではなく、社内関係者に結果を信頼してもらい実際の意思決定に活用される「良い調査」を目指す。低リスク領域は内製化し、高リスク・高解釈領域はプロに任せる。

そのうえで、自分でインタビューをするなら、「対象者に、なるべくそのまま話してもらうこと」「対象者のことを深く知りたいと思うこと」のふたつを強く意識すること。

このふたつを判断軸として持っていれば、個々の場面で「自分はどう振る舞うべきか」を考えやすくなります。

次回は、特に「対象者に、普段の行動や感じていることをなるべくそのまま話してもらう」ために、実際のインタビュー中にどのように振る舞えばよいのか、具体例でご紹介します。

執筆者プロフィール

黒河内 春子

マーケティングリサーチャー

プロフィール
マーケティングリサーチ会社にて、国内外のさまざまな業種のクライアントに対し、調査企画立案、実施、分析、報告/提案を含めた定性・定量のリサーチ業務全般を担当。
その後、大手広告代理店にてマーケティング業務に従事。各種クライアントのコミュニケーション戦略全般/コンセプト開発/ブランディング等にたずさわる。
現在は事業会社にてマーケティングリサーチ専任担当として、同社商品開発、ブランディング、広告、パッケージデザイン等に関する各種調査を担当。
現職のかたわらパラレルワークで、フリーランスのリサーチャーとして広告代理店や事業会社から調査業務の委託も受けている。

セミナー登壇
日本インフォメーション NIリサーチアカデミー登壇講師
社会人のための 数学・統計・データ分析・生成AI教室「和から株式会社」講師

公式HP
https://kurokochi.webnode.jp/